一体型結像ミラーを使った高分解能かつ高安定な顕微鏡の開発
これまでの光学系の課題は,4枚の別々のミラーを用いたことで,アライメントが難しく,かつ,これらの姿勢が安定しなかった.この結果,ユーザーによる運用が難しく,実用的な研究には利用できなかった.この問題を解決するために,楕円ミラーと双曲ミラーが一体となった一体型結像ミラーを開発した(上図)(発表論文)(プレスリリース).楕円と双曲の相対関係は性能に直結する重要な個所であるため,ここを完全に固定することでこれらの問題を解決した.一方で,このような複雑な形のミラーを作製するのは難しいことが知られている.全体的にはV字状であり,それらの2面は楕円と双曲であって,1nmレベルの作製精度で作製しなければならないからである.ミラー作製方法を高度化することで,このようなミラーであっても誤差1nmで作製できるプロセスを確立した.
上図は,本顕微鏡を使って取得したテストチャートの拡大結像イメージである.中央の50nmの構造が明瞭に観察できる.この結果をコントラスト解析した結果,少なくとも50nmの空間分解能(レイリー分解能)を達成したことを確認した.この結果は色収差のないX線顕微鏡の空間分解能としては世界最小である.
本顕微鏡の色収差を調べたところ,8~12 keVにおいて,分解能が変化しないことを確認した.また,安定性を評価したところ,20時間以上にわたって分解能が劣化することなく観察することができた.以上の結果は,実用的な研究に十分活用できる性能を有していることを示す結果である.
本顕微鏡の実用性をテストするために,XAFSイメージングを実施した.試料は亜鉛,タングステン,タングステンカーバイトの微粒子である.吸収端前後で入射X線エネルギーを変化させながら画像を撮像した.色収差がないため入射X線エネルギーの変化による分解能の劣化がない点がポイントである.上のアニメーションは,入射X線エネルギーが吸収端をまたいで変化した場合の,吸収コントラストの変化を示している.明瞭なXAFSイメージングを実施することができた.また,各点におけるXAFSスペクトルをプロット(f)すると,通常のXAFSで得られた結果とよく一致することが確認できた(図の(a)はSEM,(b)XAFSイメージをエネルギー方向に積分して得たX線像,スケールバーは2μm).
さらに,これらデータからコントラスト変化が大きい点を抽出することで,元素マップ(c,d)を作成した.このように明瞭な元素識別を実施することができた.また,タングステンのXAFSスペクトルのピーク位置を抽出する(e)ことで,タングステンとタングステンカーバイドの識別も可能であった.以上のように,容易にXAFSイメージングを実施できるほどの実用性を有していることが確認された.