Advanced KBミラーを用いた蛍光X線顕微鏡の開発

これまでのX線顕微鏡は色収差があるため,様々な波長をもつカラーX線を結像することは難しかった.全反射ミラーで構成されるAdvanced KBミラーでは,広い波長範囲で色収差がないため,蛍光X線のように様々な波長をもつX線を同時に結像することが可能である.我々はAKBミラーが持つ色収差の無い結像特性とエネルギーフィルターとしての機能を同時に利用することで,励起X線を反射させず,目的の蛍光X線のみを反射させることが可能である.これを応用することでカラーX線顕微鏡を提案した.

励起光としてややエネルギーの高いX線(20keV)を用いると,全反射の臨界エネルギーを超えたX線は反射しない.4回反射であるAKBミラーではこれが4乗で強化される.この結果,反射率は10^-9まで低下させることができた(Moコートミラー).一方,10keV以下のX線では反射率は60%程度であり,ほとんどロスなく反射させることができる.この結果,カメラ上では強い励起光や散乱光はほとんど観察されず,カメラの飽和を防ぐことができた.

カメラとして,フォトンカウンティング可能なCCDやCMOSを用いることで,X線フォトンの位置とそのエネルギーの両方を記録できる.1つのX線フォトンが半導体素子に入射すると,そのエネルギーに比例した電荷が発生する.電荷の大きさを実験後解析することでX線フォトンのエネルギーを知ることができる.本顕微鏡では,液体窒素冷却されたCCDを用いた.

上図は本顕微鏡でX線チャートを測定した結果である.500~1000nmの線幅まで解像できており,これはCCDのピクセルサイズと結像光学系の倍率によって制限されている.よい実験条件が整うと50nmまで分解能が向上できることがわかっている.

上図は微粒子試料を測定した結果である.亜鉛,銅,ニッケル,ゲルマニウム,ビスマスを同時に可視化した.また,比較のため明視野像(Bright field,同じ場所)と走査型電子顕微鏡(SEM,異なる場所)も載せている.様々な蛍光X線を同時検出することでカラーX線像を取得することに成功した.

以上のように,色収差の無いAKBミラーを用いることでカラーX線顕微鏡を開発することできた.本技術を様々な方面に応用することができれば,X線分光イメージングの分野がさらに発展すると期待している.

研究成果の一例(論文・解説記事)

  • 【論文】AKBミラーを用いた新しい蛍光X線顕微鏡を提案.(Opt. Express)