走査型X線顕微鏡(Scanning X-ray Microscope)
走査型X線顕微鏡の重要な部分な集光光学系である.我々のチームでは集光効率・スループット・色収差・波面収差の点で優れているKirkpatrick-Baez(KB)ミラー集光光学系(上図)を採用している.スループットとは,光源からの光を何%集光ビーム中に集められるかであり,光学素子のサイズと集光効率に依存する.この点は他の光学素子(フレネルゾーンプレートや屈折レンズ)に比べて,ミラー集光光学系がすぐれている点である.また,作動距離が長い(逆に言えば短くできない)ため,試料周りに十分なスペースを確保できる点もメリットである.
KBミラー光学系は,2枚の楕円ミラーで構成されている.上図のように,ミラーは,互いに直交するように配置される.楕円の幾何学的な性質として,第一焦点から出た光は楕円面で反射され,すべて第二焦点に集まるため,よい集光光学系となる.非球面であるため,当然,球面収差はない.
微小集光を実現する上での問題は,ミラーの作製精度である.形状誤差(設計形状からの差)は,2nm程度以下が望ましく(X線エネルギーと斜入射角に依存),これは通常の作製プロセスでは困難である.我々のグループでは,EEMとスティッチング干渉計を用いて形状誤差(設計形状からの誤差)2nmで非球面ミラーを作製する技術を確立した.これによって,30×50nmの回折限界集光(15keV)を達成した.
この集光光学系とX線検出器(蛍光X線検出用),試料走査ステージを組み合わせた走査型蛍光X線顕微鏡を開発した(下図).本顕微鏡は,集光ビームを試料に照射し,その照射位置から放出される蛍光X線を検出器で検出する.試料を走査することで試料全体の蛍光X線分析を行う.これによって,試料の元素組成を可視化することが可能となる.集光ビームを用いることで,高い空間分解能(30nm)が可能であり,また,高い感度(フェムトグラム~アトグラム)で検出することが可能となった.