スペックルを用いたSub-10nm集光ビームのサイズ評価

集光光学系において,ビームサイズを正確に計測することは非常に重要である.通常はナイフエッジ法(ワイヤスキャン法)などを用いるが,集光径100nmを切ったあたりから,光学素子の振動の問題,ナイフエッジの先端のラフネスの問題,ビーム位置のふらつきの問題などで,誤差が大きくなる.集光径10nm以下の世界で,かつ,X線自由電子レーザー(XFEL)においてはこの問題はさらに致命的なものとなる.その理由として,集光されたXFELは非常に高いピーク強度を持つため,ナイフエッジを瞬間的に蒸発させる.アテネータでX線を減衰させることもできるが,その場合はナイフエッジ法のシグナル強度が落ちてしまうためうまく測定できなくなる.さらにその上,XFELの発光点はショットバイショットで変動していることが分かっている.この変動は集光位置の変動となり,光学素子の振動も重なって,ビームプロファイル計測の精度を大きく落とすことになる.このように,XFELナノビームの集光サイズを計測することは非常に難しいことが知られている.

この問題を解決するために,コヒーレント散乱によって生じるスペックルパターンを用いた,シングルショットビームサイズ計測法を開発した(下図:プレスリリースより).本手法は,直径2nmの微粒子からのコヒーレント散乱シグナル(スペックルが含まれる)をX線カメラでショットバイショットで撮影する.得られたスペックルのサイズを正確に解析することでビームサイズを決定する.本手法のメリットは,ビーム位置の変動,光学素子の振動,物体の損傷に左右されず正確なビームサイズ計測が可能である点である.

下図(プレスリリースより)に,シミュレーションによって得られたビーム形状とスペックルパターンを示している.ビームサイズを変調するためにミラーのミスアライメントを導入している.ビーム形状とスペックル形状は,フーリエ変換の関係になるため,スペックルサイズが大きいと小さなビームができていることが分かる.また,ビーム形状についてもスペックル形状から理解できる.

この方法を実証するために,SACLAのsub-10nm集光光学系を使って,集光XFELのビームサイズ計測を実施した.この実験では,KBミラーの調整を行う前後でスペックルパターンを測定した.スペックルサイズが大きくなるようにKBミラーの調整をシステマチックに実施していった.実際の波面収差から予想したビーム形状を使って,スペックル形状を計算したところ,実際のスペックル形状とこの計算によって得たスペックル形状はよく一致することが分かった(下図:プレスリリースより).この結果から予想されるビームサイズは6 nmであることが分かった.このように,本手法はXFELに非常に有効であり,10nm以下のビームサイズを決定することができた.本手法はさらに小さいビームにも適用可能であり,今後の活躍が期待される.

なお,本論文は成果は,Journal of Synchrotron Radiationの2020年07月号の表紙に選定されました.

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研究成果の一例(論文・解説記事)

  • 【論文】スペックルの精密解析に基づいたsub-10nm XFELビームの集光径を評価する技術を確立.(JSR)
  • 【プレスリリース】最先端の「光」.集光径 6nm の X 線レーザービームの精密計測に成功.(大阪大学)
  • 【論文】蛍光X線の強度相関を使ってXFELのビーム径を評価.(JSR)