X線フーリエタイコグラフィの開発

フーリエタイコグラフィの原理

Summary of fourier ptychography

フーリエタイコグラフィ(Fourier Ptychography)は,可視光領域でよく使われているコンピュータベースのイメージング手法で,X線領域ではおなじみのタイコグラフィ(Ptychography)の顕微鏡版である.大視野と高分解能を達成可能な手法であって,また,試料の位相情報を定量的に可視化できるため,有望なイメージング手法である.タイコグラフィとは相補的な関係にあるが,タイコグラフィと比べて空間コヒーレンスがあまり必要でない点が重要である.

原理を理解するために,平面波照明型の顕微鏡を考える.平面波を試料を照射すると,試料からは散乱波が放出される.散乱波は試料の複素透過関数のフーリエ変換で表現できる.これをレンズで結像すると,カメラ面ではコヒーレント結像が得られる.これは,レンズによる逆フーリエ変換作用と,レンズよる空間フィルターの作用でによって,像が再構成(つまり結像)されたと理解できる.一方で,平面波を試料を中心に傾けると,広角側にシフトした散乱波が放出される.これを結像すると,偏斜したコヒーレント結像がカメラ面で得られる(低角側の散乱光がないため奇妙な絵になるが,広角側の散乱波が含まれているため,高分解能な絵となる.いわゆる偏斜照明と呼ばれる古典的な技法と同じ).逆空間で考えた時に,このような現象はレンズの瞳関数のシフトであると理解でき,通常のタイコグラフィ(実空間におけるプローブ関数のシフト)のように考えることができる.この方法の空間分解能は,照明光を傾けるる量に比例して高くなる.これは瞳関数のシフトによって疑似的な開口数の拡張されているためである.感度問題を無視すれば照明光を大きく傾けることで,レンズの開口数に制限されずに,無制限に空間分解能を向上可能である(現実には広角側の散乱光が弱いため,カメラの感度で空間分解能は制限される).

実験の手順として,照明光を傾けるながら複数の撮影画像を集めるだけでよい.逆空間における瞳関数のシフトを足掛かりとして,タイコグラフィのアルゴリズムで位相問題を解くことができる.典型的なフーリエタイコグラフィでは,結像レンズの開口数程度まで照明光を傾けながら試料強度像を100枚程度撮影する.これをePIEなどのアルゴリズムで位相回復すると,試料の複素透過関数(位相と振幅)とレンズの瞳関数(位相と振幅)を決定できる.

ミラーベースのX線フーリエタイコグラフィの開発

Results of X-ray fourier ptychography

X線領域のフーリエタイコグラフィでは,照明光を正確かつ大きく傾けることが難しい.このため,我々のグループでは,照明光を傾けずに,試料・AKBミラー・カメラを一体として傾けるシステムを開発した.これによって,大きな角度領域まで照明光を傾けることができ,高分解能化を達成できる.SPring-8にて,全反射AKBミラーベースの結像顕微鏡を使って,実証実験を実施した.上図(上段)のようなセットアップを使って,顕微鏡システム全体を傾けた.カメラにて得られた複数の強度像(上図中段)をePIEに入力し,試料の複素透過関数と瞳関数を再構成したところ,上図(下段)のように振幅・位相共にうまく再構成でき,鮮明な画像を得ることができた.用いたテストパターンの最小線幅は20nmである.FRCによって分解能を評価したところ,22nmであることが分かった.また,瞳関数の情報も再構成でき,AKBミラーの形状誤差由来の波面収差を定量的に決定することができた(上図の下段右).現在,試料可視化のためのイメージングツールとしての利用だけでなく,波面計測手段としてアダプティブX線顕微鏡のために利用しようとしている.

研究成果の一例(論文・解説記事)

  • 【Proceedings】Development of X-ray Fourier Ptychography Using Mirror-based Achromatic X-ray Microscope
  • 【国際会議】Development of X-ray Fourier Ptychography Using Mirror-based Achromatic X-ray Microscope (ASPEN2023)
  • 【国内会議】Advanced Kirkpatrick-Baezミラーを用いたX線フーリエタイコグラフィ (OPJ2022)
  • 【国際会議・招待講演】High-resolution Full-field X-ray Microscope Based on Multilayer Advanced KB Mirrors (XRM2022)